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貸借対照表重要項目一覧



要約

  • 貸借対照表重要項目一覧
  • 資産と負債には流動と固定という大きな区分があり、1年という期間を基準に区分されている
  • 純資産については倒産のリスクや資本再構成がない限り、分析は行わなくてよい

導入

 前のページでは財務諸表と財務3表の関係について紹介しました。今回は貸借対照表について詳しく見ていきます。

 項目の種類は無数にあるため、今回はよく見る項目で重要なものについてのみ、扱います。このリストになく、金額の小さい項目であれば原則無視しても構わないですし、気になればググるといいでしょう。基本的には文字通りの意味を意味する項目が多いです。

貸借対照表の基本構造

 貸借対照表の基本的な構造は以下のようになります。

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 貸借対照表は主に3つのパーツ、総資産、総負債、純資産で構成されています。企業は負債もしくは純資産という形で資本を調達し、それを資産に変えることでビジネスを行っています。この資産、負債、純資産の状況を表したのが貸借対照表です。

 資産(アセット、asset)

 資産とは将来的に収益を生み出すものを指します。資産には大きな区分として流動資産と固定資産があります。流動資産と固定資産の合計を総資産と呼びます。それぞれの主要な項目を一覧にして解説します。

流動資産

 原則、1年以内に使える、またはなくなる資産です。企業にとって流動資産の管理は重要であることをこちらのページで解説しています。特に通常時着目べきなのは1,2,4です。

  1. 現金/現金同等物...現金、または預金などを指す。原則確実にすぐ使える。
  2. 受取手形/売掛金(電子債権)...企業が商品を販売するにあたり、代金を後払いにすることで生まれる債権。なるべくこの項目は金額が少ないほうがいいとされています。ですが売上と比例して増えるため、売上でこの項目を割り365日を掛けた売掛金回収日数で売掛金が適正かを測るのが一般的です。売掛金が顧客が支払不能となることを貸し倒れといいます。貸し倒れの際に以下の貸倒引当金を超えた分については当期の費用として損失になります
  3. 有価証券...企業の持っている有価証券で、短期保有目的のもの。時価評価であるため、評価損益が出ると営業外収益/費用として認識される。
  4. 棚卸資産...在庫のこと。完成品である商品、製品の他に未完成の仕掛品/半製品、原料となる原材料などが存在。在庫が増えるには2通りあります。①将来の売上増加が見込まれるため在庫を積みましている、②販売不振で在庫が溜まってしまう、の2パターンです。もし在庫が急激に増えた場合、どちらのパターンかで大きく状況が異なります。また売掛金と同様に売上や原価と比例する項目で、売上でこの項目を割り365日を掛けた在庫回転日数で在庫水準を判断します。一般的に棚卸資産の評価方法は4種類あり、それは会計基準のページで扱います。また、ビジネス環境や災害によって棚卸資産の価値が下がると損失になります。
  5. 繰延税金資産...前年度までに損失を出したことで、一年以内に控除される税金額。税後利益が増える要因。
  6. 貸倒引当金...売掛金に適当な係数をかけ、売掛金貸倒となった際にすぐに損失を出さないための項目。常にマイナスで記載されます。
  7. 偶発債権...今後、利益を出しうる出来事のための利益準備項目。通常記載されないため、見つけることができ、額が十分に大きければチャンスです。詳しいことは会計基準のページ参照
固定資産

 固定資産は長期に渡って保有する資産です。そのため、経年劣化や、突然の出来事で価値が大きく下がってしまうことがあります。財務諸表上でこのようなことを反映させる処理として減価償却と減損があり、会計基準のページで紹介します。

 また、基本的に取得原価での評価であるため、時価が上がっても売却して初めて利益が出ます。固定資産には大きく分けて以下の3種類あります。

  1. 有形固定資産...目に見える資産。土地、建物、機械、建設仮勘定などが該当。建設仮勘定は長期間をかけて建設している場合、まだ使えない建設途中でも資産として一部を計上する際の項目。取得原価で記載され、耐用年数に応じて減価償却という形で年々価値が下がり、その分は販管費に含まれます。
  2. 無形固定資産...目に見えない資産。特許権、商標権、ソフトウェア、のれんなどが該当。のれんとは企業買収を行った際に、時価に乗せた割り増し金額(コントロールプレミアム)です。つまり時価総額100億円の企業を130億円で買えば、30億円がのれんとして計上されます。買収先の企業の業績が悪化すると損失になります。
  3. 投資その他の資産...有形/無形資産以外で長期保有をする資産。投資有価証券、関係会社有価証券、1年以上の繰延税金資産などが該当。投資有価証券は子会社、関係会社以外の有価証券を指し、関係会社有価証券は子会社、関係会社の有価証券です。

 また、関係会社とは役員などを派遣している、もしくは議決権(原則、普通株式)を20%以上保有している会社のことを指します。

負債(Liabilities)

 負債とは将来的に金銭的負担を生むものです。資産同様流動負債、固定が2大区分です。

流動負債

 原則、1年以内に金銭負担が発生する項目です。

  1. 支払手形/買掛金...企業が原材料を仕入れるにあたり、代金を後払いにすることで生まれる債務。
  2. 短期借入金...有利子負債。通常銀行からの1年以内の借入で比較的低金利。
  3. 1年以内返済/償還予定の長期借入金/社債...有利子負債。借入/発行当初は1年以上の返済/償還期限があったものの中で、返済/償還が1年以内に迫っているもの。
  4. 商品券(一部の業種のみ)...既に発行している商品券で、1年以内に割引する可能性がある金額の合計。
  5. 引当金...商品に不備などがあった際に対応をするための準備項目。商品/製品保証、修繕、返品調整など各種存在します。どのような引当金か不明な際は、注記の重要な引当金の計上基準を読むことでわかることがあります。
  6. リース債務...有利子負債。フィナンスリースによって発生した1年以内に返済する債務。リースについては注記のページ参照
  7. 偶発債務...今後、損失を出しうる出来事のための損失準備項目。通常その他の流動負債に眠っています。詳しいことは会計基準のページ参照
固定負債

 原則1年以上の将来に渡って金銭的負担が発生する項目です。

  1. 社債...有利子負債。社債発行によって調達した額。転換社債などの種類も存在。
  2. 長期借入金...有利子負債。通常銀行から借り入れた金額。
  3. リース債務...有利子負債。フィナンスリースによって発生した負債のうち1年以上後に返済する債務。リースについては注記のページ参照
有利子負債まとめ

 企業分析(WACC計算、EV計算、財務分析..etc)において重要になる有利子負債について再度まとめます。有利子負債は主に3つ種類があります。

  1. 借入金...主に銀行からの借り入れ(間接金融)。短期と長期が存在。
  2. 社債...主に債券投資家からの借り入れ(直接金融)。短期と長期が存在し、特に短期をコマーシャルペーパーと呼びます。
  3. リース...簿外のオペレーティング・リースと貸借対照表上に載るファイナンスリースが存在。注記に利息が記載されている場合があります。リースに関しては注記についてのページを参照。

 EVの計算としてリースは含まなくてはなりませんが、WACCの計算としてリースの支払い利息が不明な場合で、リース債務額が大きくない場合はリースを無視しても構いません。

会計における流動と固定

 資産と負債にはどちらも大きな項目の分け方として、固定と流動の区分があります。流動と固定は原則、1年を基準として以下のように分けられます。

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純資産

 返済義務のない資金で、概ね株主からの出資と利益の内部留保の合計です。利益の内部留保とは企業が上げた利益のうち、(主に配当として)株主に還元せず、企業に残した利益のことを指します。通常内部留保は企業の事業投資など企業成長のために使われています。基本的に倒産のリスクや、資本の再構成が行われない限り分析は不要です。

 純資産は4つのパートに分かれており、それぞれについて解説します。

株主資本

 株主の出資と利益の内部留保の合計で、企業活動の基礎となります。3つの種類に分けることができます。

  1. 資本金関係...資本取引によって会社が得た資金のことを言います。資本金、資本準備金、資本余剰金が該当します。資本余剰金のみ配当の原資になります。
  2. 利益余剰金...今までの利益の内部留保額の合計です。配当金の原資になり、当期利益のうち、配当金にならない部分が出ると利益余剰金は増えます。
  3. 自己株式...企業自身が保有する株式の取得原価の評価額です。株式の消却を過去に行った場合にのみ存在し、マイナスで記載されます。
評価・換算差額(その他の包括利益累計額)

 企業の持つ資産、負債の評価額の変動を表したものです。主に為替レートの変動による為替換算後の評価損益などが含まれます。予測は不可能ですが、資産が為替などの変動によりどの程度変化するかを把握することが可能です。

新株予約権

 主にストックオプションなどにより、将来一定の金額で株式を購入する権利を新株予約権といいます。この権利の売却により調達した資金をここに記載し、権利が使われるごとに、新株予約権が減少し、株の売却価格が株主資本に加算されます。

非支配株主持分(少数株主持分)

 企業の子会社で、企業が議決権を全て保有していない場合に現れる項目です。企業の子会社の、企業が保有していない分の純資産額になります。貸借対照表ではさほど重要ではないですが、損益計算書でしっかり計算に含まなくてはなりません。

 次のページでは、損益計算書の項目を紹介します。

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