投資の世界に生きる

プロ投資家として投資の基礎を発信


投資と投機の違い~使い古された話題を敢えてプロが考える~



要約

  • 投資は「安いから買う」、投機は「値上がりするから買う」
  • 投機は市場価格に注目、投資は本源的価値に注目

導入

 投資と投機の違いについて論じます。一般的には耳にする話題でしょうが、実はプロ同士の間で投資と投機について論じることは滅多にありません(私の周りだけかもしれませんが)。そこで、色々考えてみた結果を記したいと思います。私の考えた結果とは言いますが、その背景にはBenjamin Graham氏やGeorge Soros氏を始めとした偉大な投資家たちの考えを受けての結果でもあります。これをきっかけに投資への向き合い方、自分の投資スタンスの見直しの参考になればと思います。

投資と投機の違い

 結論から言うと儲けるメカニズムに違いがあり、投資は「本源的価値と市場価格の乖離から儲けること」、投機は「今後予想される市場価格の動きから儲けること」だと私は考えています。平たく言えば投資は「安いから買う」、投機は「値上がりするから買う」という考え方に基づいているということです。

 私の結論において重要な点となるのが投資と投機の違いを儲け方、儲かるメカニズムの違いと論じているところです。では、その儲ける仕組みの違いが実務としてどのような違いを生むかを考えていきたいと思います。

投機で儲ける

 投機で儲けるには、今後の市場価格の動きを予測することが全てです。今後の動きの予想には多様な要因が絡み合ってきます。今後起きるイベントやニュース、今現在の需給環境、投資家の心理...etc。実はこれはプロでもかなり難しく、いかに冷静な論理付けがあっていても成功する確率はそこまで高くありません。なぜかなり難しいかというとマーケットには前述のように多くの要因がそれぞれの重要性を変えながら変わる上、その変化は理由なく起こったりするからです。

 では客観的に投機で儲けられる方法について考えると代表的なものは以下のような方法があります。

1. 統計的に儲かる掛け方をする...こういうマーケットではこうなりやすい(アノマリー)、歴史的にこうなる傾向にある、他の資産との相関、テクニカル分析、クオンツ運用etc

2. ほぼ自分しか知らない情報に賭ける...(インサイダーに抵触してはいけませんが)決算予想、経済統計予想、特別な需給の観測etc

3. その他トレーダー固有の優位性...得意なマーケット環境etc

 投機を行う際に非常に重要なのは運と実力の峻別です。特に3はそうで、3についてはその存在自体をまず疑ってかかったほうがいいでしょう。自分が得意だと思う特定の条件を自分なりに見つけることは極めて大事ですが、多く経験を重ねるまであくまで偶然かもしれません。実際運によって結果が増幅されることも多々あり、謙虚な姿勢を保たなければリスクのとる量をいずれ間違えて大きく損することになります。

 また投機の場合、市場の価格変動が全てですので価格変動をなるべく確認するのも大事です。その際に自分の予想が外れたのか、市場価格が異常な動きを冷静に見極めることが要求されます。

 まとめると投機の難しさは以下の3点です。

1. 市場価格は多すぎる要因によって変動し、要因ごとの重要性も変わってしまう

2. 結果に対し、実力と運を謙虚に峻別することが心理的に難しい

3. 価格変動の異常と自分の予測のミスの峻別が極めて心理的に難しい 

投資で儲ける

 投資で儲けるには、投資対象のものが持つ本源的価値の見極めが全てです。あくまで本源的価値を見極めるのであって市場価値については考えないところが投機と大きく違います。あくまで投資の立場からは市場価値は提示されるもの(所与)に過ぎないのです。なぜなら、市場価値は概ね正しい値を提示しますが、様々な要因によって本源的価値とは大きく異なることが多々あるからです。これに関しては冷静な論理付けがあれば決して難しいわけではないと私は思います。

 では、投資で儲けられる方法についていくつか代表的なものを紹介します。

1. バリュー投資...現在考えられることから算定した本源的価値が市場価値より大幅に高い際に投資

2. グロース投資...冷静に描ける将来像から算定される本源的価値が市場価値より大幅に高い際に投資

 投資において重要なのは周りが何と言っていようと自分の中で確固たる筋の通った意見を持つことです。本源的な価値の算定そのものが正しかったとしても、それが市場に受け入れられるには長い時間を要することもあります。その間市場価格がどのような動きを見せたとしても自分が合っているならば、それを信じなくてはいけません。従って、本源的価値の算定自体に大きな誤りがあるとすると高い勉強代を払うことになるためミスをすることがほぼ許されないのが投資の難しさではあります。そのため、今後の未来においてある程度様々なシナリオを頭に入れて置くのが重要です。もちろんその確認のために市場価格の値動きはいいとしてもニュースは日々追うことが大事です。

 まとめると投資の難しさは以下の2点です。

1. 市場価格の多少の変動に踊らされず、確固たる意見を持ち続けることの難しさ

2. 本源的価値の算定で重大なミスを犯してはならない難しさ

どちらが儲かるのか

 投機と投資どちらがより儲かるかは人次第で、どちらの考えが自分に合うかによります。ですが、一般的に受け入れやすいのは投資だと考えます。なぜなら市場価格の変動は論理が通っていても不正解となることがありますが、本源的価値の算定は論理的に穴がなければ時間はかかっても不正解とはならないです。ただ、私が推奨するのはどちらかに軸足を置きつつも両方について日々鍛錬することです。

 また、現実的にどちらができるのかという問題点もあります。投機を行うならばなるべく頻繁に価格変動に目をつける必要がありますし、頻繁に売買せざるを得ません。一方投資ならば、比較的長いスパンで調査を行う必要はありますが、それ以降は日々のニュースなどを確認するだけでよいでしょう。個人的には値動きを知っても役に立つ範囲はたかが知れていると思いますが、日々のニュースを追うことは広い範囲で役立つことですから時間/労力的コストではないと考えています。

 

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