要約
- バリュエーション指標は同業他社、もしくは過去の水準と比較して用いること
- EPS/BPSとPER/PBRをセットで使う
導入
今回紹介するのは株価/株式分析における、3つの代表的な指標PER、PBR、ROEを実際にどのように投資判断に使うか紹介したいと思います。万能ではありませんが、これらの指標を使うと投資判断を簡略化することができます。
事前知識
PER、PBR自体に関してはこちらのページの時価総額マルチプルの項目で大まかに紹介されています。また、他のマルチプルに関しても紹介されています。
また、ROE自体に関してもこちらのページにて算出方法と他の代表的な指標を紹介しています。
念のため簡単にPER,PRB,ROEを再度ここで定義すると以下のようになります。
PER/PBR/ROEの定義
PER(株価収益率)
PER(株価収益率)とは純利益の何倍の株価で取引されているかを示します。純利益は企業の所有者である株主に帰属するものです。従って、ざっくり言えば今その企業に投資すると今の純利益では何年間で元が取れるかを示し、そのため最も使われる指標です。また、将来の企業の収益の成長に対する期待値を反映する数値です。
せいぜい30倍以下が妥当でそれ以上ではPERでは適切な判断ができなくなります。以下が計算式になります。
PERが適切な値ではない場合、DCFもしくはEVA(残余利益)を用いることになります。DCF、EVAに関しては以下の記事を参考にしてください。
PBR(株価純資産倍率)
PBR(株価純資産倍率)とは大まかに言えば、「発行時の株価+企業が過去に生み出した収益で配当とせず、企業内で再投資した内部留保」の何倍で取引が行われているかを示します。これらのことから企業の資産を全て今売却するのに比べ、企業が営業することによる価値がどのくらいあるかがわかります。
従ってPBRで最も重要なのは以下か1以上か(即時解散が是か非か)です。
ROE(資本収益率)
ROE(資本収益率)とは簿価ベースで株主の投資額に対し、どの程度リターンを払えているかという指標です。つまり、どの程度効率よく株主に投資してもらったお金を使って稼いでいるかを示します。ROEは業界によりますが、10%以上あれば優良企業でしょう。
PER/PBR/ROEの違いと関係性
PERとROEの違い
PERの逆数(株式益回りとも呼ぶ)は以下の式で計算されます。
ROEの式と比べると分母の株主資本が時価評価(時価総額は株主資本が時価評価されたものです)されたものが、PERの逆数であることがわかります。つまり、ROEは会計上の収益率である一方、PERの逆数は今投資した際の収益率を示します。
PERとROEの関係におけるPBRの役割
ROEとPERの違いは株主資本が簿価か時価かの違いでした。そこで、PBRは簿価と時価のときの比率を示しています。したがって、PBRが1を超えていれば、PERの逆数<ROEとなり、PBRが1以下であればPERの逆数>ROEとなります。
バリュエーション指標の見方
バリュエーション指標は必ず1.同業他社 2.過去の水準 のいずれかと比較して用います。そして、比較の上で割安、割高か判断をします。
同業他社との比較
自動車株について実際に比較してみましょう。
- PER...日産のPERが低いという点に着目したとしましょう。ここで、もし日産はマツダより伸びると思っていれば自動車株を買うときにまず買うべきは日産となります。また、同じように富士重工はトヨタより伸びると考えれば富士重工が買いとなります。
- PBR...基本的にはPERと相関してしまいますが、資産効率によって順位が逆転することもあります。日産の純利益が今後マイナスになることはないと考えれば、PBR1を割っている日産は買いである可能性が高いです。
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ROE...上の表では富士重工を除けばマツダが比較的効率がいい一方でPER/PBRが低めといえます。もしトヨタとマツダの成長率が同程度はあるとするならば、マツダが割安だともとらえられます。
以上の例のように、指標を使って投資判断するにあたり必要なことがあります。それは同業内で各企業のファンダメンタルズの分析が済んでいることです。
過去との比較
以上は架空のケースの想定ですが、このようなことはよくあります。8月の指標をみると日経平均は同じ水準でもあるにかかわらず、PER/PBRは元の水準に直っていません。もし、企業のファンダメンタルズに変化がなければ、これは割安放置株であることがわかります。(5月が正しい水準という想定です。)
このケースでは、株価指数が高止まりを始めると、時間がたつにつれ、PER等は以前の水準になります。それを見越して買っておくことで収益を上げることができます。
以上のようにあくまで比較の上で判断を下す指標です。では次にそれぞれの指標を見る上での問題を大きく2つに分類し、それらの解決策について紹介します。以下の点を踏まえれば上記の結論にも問題がある可能性が見えてきます。
PER/PBR/ROEの注意点
純利益(E)に関する注意点
決算期の違い
問題:PER、ROEを見る際に一番最初に気を付けるべきなのはいつの決算期を元にしたPERかです。
解決策:主に2種類あり、1.次期の予想純利益、2.当期の予想純利益のパターンがあります。主にプロによって用いられるのは1の次期の予想純利益に対するPERであり、こちらを参考にするのが一般的です。なぜなら株式市場は常に将来を見て取引される市場であるため、過去の指標を使っても意味がないからです。(もちろん将来を予想するために過去を使うというのも事実ですが。)
純利益自体の問題
問題:純利益は特別利益/損失など一時的な影響も含んでしまうため、変動が大きい数値でもあります。また、赤字に転落することもあり、するとPER、ROEが計算できなくなります。
解決策:
①PER自体は、予想される将来の収益が中長期的に変動しない限り変わる数値では本来ありません。そのため、特損などで純利益が大幅に変わっていた場合決算を確認し、本来の純利益がどの程度か把握し、その純利益を元に本来のPERを計算し直すのが良いでしょう。
②PBRを含めた他の指標を用いるのが代替案としてあります。実際にアナリストもPERではなくPBRで目標株価を算出することがあります。特にPBRは純資産をベースとしており、純資産が大きく変わることはなく、PERの次点として用いやすい指標です。ただし、PBRを用いる場合は以下で述べるPBRの注意点を確認しなければなりません。また、PBR以外の指標としてはEV/EBITDAなどがありますが、個人投資家は計算をする必要があるため手間ではあると思われます。こちらのページで代替策となるマルチプルを紹介しています。また、ROEの代案としてはROICを計算することを推奨します。こちらのページでROICについて紹介しています。
資本構成(財務レバレッジ)の問題
PBRの妥当性と注意点
PBRはBS項目である株主資本と株価を比較しているため、PERに比べかなり安定した数値です。また、製造業などは持っている資産(機械)の量で収益はほとんど決まっているためBSの大きさから株価を判断することは妥当だと言えます。しかし以下の問題点があります。
問題:企業は資産を使ってビジネスをしているということ。つまり、資本構成における負債が増えれば見かけのPBR、ROEは上がってしまうのです。
解決策:資本構成に大きな変動(大幅な増資、負債による調達)があった場合は修正をすることを推奨します。しかし実際には計算が難しいこともあるのでPBR、ROEに大きな変化があった際に、それが資本構成の変化によるものか、企業の効率性の変化によるものなのかを判断しましょう。
株価変動の原因分析
株価が変動するには主に、業績(ファンダメンタルズ)、心理(センチメント/テクニカル)の2つに分解されます。そのため、これら2つを分けて株価の変動を考えることが重要です。
EPS/BPSを使う
プロが株を見るとき、PER/PBRとセットでEPS、BPSを見ます。EPS(Earning Per Share)とは1株あたり純利益、BPS(Book-value Per Share)は一株当たり純資産です。従ってEPS×PER、BPS×PBRによって株価が算出されます。
ここで、株価変動の業績部分がEPS/BPSで、心理の部分がPER/PBRに反映されます。そのため、プロが株価を買うときは、EPS/BPSは今の予想より上回るはずだ、もしくはPER/PBRは今よりも高くなるはずだと考えます。
その時々のEPSの予想はIFISの業績予想を参考にすることができます。