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投資虎の巻~大局から投資すべき資産を見抜く~



要約

  • 大局を掴むには、物価、実質金利の動向を捉える
  • インフレ耐性のある資産とない資産を区別
  • インフレ耐性のある資産のなかでリスクオフでも価格上昇が見込めるのは貴金属のみ

導入

 新型コロナで市場だけではなく、多くの方の生活も一変していると思います。政府によるロックダウンなど人為的なものであったとはいえ、4-6月期のGDPは世界的に四半期で過去最大の下落幅となりました。倒産やボーナスの減額など肌感覚としては不況感が漂う中、市場は米国では一時過去最高値を更新していたこともあり戸惑われている方も多いと思います。このような状況下でも惑わされないためには大局観を捉え、先を見据えた投資を行うことが重要だと思います。

 そこで今回は大局の捉え方、そして大局観から投資すべき資産の判断方法を紹介したいと思います。

 

個人投資家にとっての投資選択肢

 まず、個人投資家が投資可能な資産分類としては以下の7つが挙げられると思います。今回は大局観から、以下のどの分類に投資すべきか判断する方法を紹介したいと思います。

  1. 現金...外国為替を含む。現金を保有するというのは立派な投資行動です。
  2. 債券...金利のつく定期預金、国債、投資信託など
  3. 保険...定額の掛け捨てではない保険。保険は本質的に債券投資と変わりません。
  4. 株式...株式指数(TOPIX、日経平均、S&P 500)、個別株式
  5. 不動産...REIT指数、REIT、不動産
  6. 貴金属...金、銀、プラチナなど。ETF、投資信託、現物で投資可能
  7. エネルギー...主に原油。ETF、投資信託で投資可能

 これらの資産は、インフレ(物価上昇)への耐性有無で2つに分類できます。1-3はインフレに弱く、4-7はインフレに強い資産です。

 物価上昇が起きると、数十年前の100円は今は30円の価値しか無いということが起きます。1-3の資産は投資するときに、将来得られる絶対額が決められているため、インフレが起きると将来時点での価値は劣化している可能性があります。一方4-7の資産は一般的に物価とともに価格が上昇するためインフレに強いとされています。

 これらの基本を前提に、大局の捉え方、投資すべき資産の見極め方法を紹介します。

絶対に覚えておく市場のルール

 本記事では経済状況の大局の捉え方を説明しますが、市場は短期的には大局観通りの動きをしないことがあります。それは、「市場は、需給が最優先で価格が決定される」からです。これによって大局観からは考えづらい値動きが、短期的に生じることがあります。細かく需給を読むことはプロでも難しい一方、長期的な需給であればあるほど予想を立てやすくなります。また大局を捉えるということは、長期的な需給を考えるということです。

大局を捉えるための2つのポイント

 投資の大局を捉えるにあたって着目すべきは以下の2点のみです。

  1. 物価動向
  2. 実質金利動向 (≒中央銀行の姿勢)

  実質金利は聞き慣れないと思いますが、端的に言えば10年国債金利とインフレ率の差です。10年金利が2%、インフレ率が1%なら実質金利は1%です。(後ほど詳細に説明します)  下図のようにこの2つのポイントが分岐点となり、投資すべき資産を特定することができます。

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大局観からの投資判断

 まずはインフレが起きるかどうかが、最初のポイントです。インフレがなければ原則現金、債券、保険などの安全資産に投資すれば十分でしょう。次に考えるべきは実質金利がプラスなのか、マイナスなのかです。一方インフレが起きていても現金以外の安全資産はNGというわけではなく、インフレ率を上回る利回り(実質金利がプラス)があるなら問題はありません。もし安全資産に十分な利回りが見込めない場合、インフレに強い資産群に投資するのがよいでしょう。

 それでは上の図に従って、物価、実質金利の順でそれぞれの考え方について紹介します。

物価についての考え方

 まずは投資判断の最初の分岐点、物価について解説します。物価について判断すべきは、物価が上昇(インフレ)基調か、下落(デフレ)基調かです。物価動向を把握するのに一般的に用いられるのは消費者物価指数(CPI)です。こちらのサイトで日本の物価に関しては確認できます。日本は長らくデフレが続いていましたが、近年はインフレ方向にシフトしつつあるとみられます。

 物価は需要(ヒトの消費欲求)と、貨幣価値のバランスによって変動します。概ね貨幣価値はが変わらない場合、需要が変動することで物価が変動します。需要が強いとき=好景気は物価が上昇し、需要が弱いとき=不景気になると物価が下落します。下図が物価決定のイメージであり、シーソーが水平になるところに物価(三角の支え)が動きます。

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物価についての考え方

 続いて物価の決定要因である需要と貨幣価値の考え方を紹介します。需要は多くの国で過半が個人消費です。続いて政府支出、設備投資が大きなウェイトを占めることが多いです。従って需要動向で着目すべきは、

  1. 政府による経済対策...財政出動は政府支出を増やすほか、減税は個人消費、設備投資を盛んにする
  2. 失業率/給与動向...個人の収入が個人消費を決定づける

などが挙げられます。特に政府による経済対策は需要全体に直接働きかけることができ、最重要の注目点です。

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需要イメージ

 貨幣価値は貨幣の需給バランスによって変動します。貨幣需要は上記の需要とほぼ同じだと思ってよく、極端な変動は滅多にありません。一方、貨幣供給は中央銀行の一存で決定され、大きく変わります。中央銀行が金融緩和を行っていれば貨幣供給を増やしており、金融引締を行っていれば貨幣供給を減らしていることになります。従って、中央銀行の金融政策に注視することが、今後の貨幣価値を考える上で最重要となることが多いです。

 余談ですが、市場は通常リスクオン(=好景気)のときに価格が上昇する資産と、リスクオフ(=不景気)のときに価格が上昇する資産に別れています。ですが、時折現金以外すべての資産価値が下落することがあります。ブラックスワンとも呼ばれるこの現象は、資産価値の急落などの理由で急速に貨幣需要が高まることによって起こると私は考えています。

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貨幣価値イメージ

実質金利の考え方

 続いて、インフレが起きている際に考えるべき実質金利の紹介をします。一般的に金融市場で金利というと、10年国債の金利のことを指します。金利から期待インフレ率を引いたものが、実質金利となります。実質金利が何を意味するかというと、「お金を貸す」ということに対する価格を表します。インフレが発生していれば、将来返ってくるお金にインフレ率分は増えて当然ですが、それに加えて返ってくるのが実質金利になります。しかし、実質金利はマイナスにも往々にしてなります。

 国債の金利は実質的に中央銀行によって管理されていると言っても過言ではないことから、物価動向と中央銀行の姿勢を把握することで実質金利が正か負かを判断することができます。一般的に中央銀行が金融緩和をしていると実質金利はマイナスになり、金融引締をしていると実質金利はプラスになります。

 ※デフレ時にも実質金利は存在しますが、マイナス金利でなければ実質金利は必然で気にプラスになります

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実質金利の考え方

 実質金利がプラスであれば、現金以外の債券、保険は投資価値がありますが、マイナスの場合は損となります。そうした際にはインフレヘッジが効く資産群への投資がよいでしょう。インフレヘッジが効く資産群は幅が広いため、続いてインフレヘッジの資産群の中で、それぞれの投資をどのように考えるかを紹介します。

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実質金利に応じた投資判断

インフレヘッジ資産群内の投資の考え方

 先程資産によってリスクオンとオフ、どちらで価格上昇が起きるかが異なると説明しました。上の図では貴金属がリスクオフ(=不景気)のときに、それ以外はリスクオン(=好景気のときに)のときに価値が上昇する資産です。まずは貴金属とそれ以外のどちらに投資するか景況感で把握するのがよいでしょう。

 株式や不動産は、保有することで配当などで現金収入を得られますが、貴金属、エネルギーはそれ保有すること自体では価値を生みません。 そのため貴金属、エネルギーに投資をする場合、必ずタイミングよく売却することを頭に入れておきましょう。

 以下でインフレヘッジ資産について、各資産の考え方を紹介します。(不動産は個別色が強いため割愛します。)

貴金属投資の考え方

 最も一般的な投資先は金です。余程の理由がない限り、このジャンルでは金への投資を推奨します。前述の通り、この資産はリスクオフや景気後退局面で価値が上昇する資産です。そのため景気が悪い状況が続くと見るのであれば、第一の投資検討先になります。最も金の価格が上昇するのは、物価が上昇する一方、景気が良くならないスタグフレーションという状況のときです。また、このようなときは往々にして中央銀行による金融緩和が行われており、実質金利がマイナスであることが多いです。売却タイミングとしては、1. 景気に回復が見られるとき、2. 実質金利がプラスになるとき、です。

株式投資の考え方

 一般的な投資先は、日本株であれば、日経平均、TOPIX、米国株であればS&P 500, NASDAQ総合(IT株が主)になります。先進国株や発展途上株などから個別株など多数の商品があります。しかし、特定領域における知識がなければ 日米の4指数に留めるのが良いでしょう。 

 原則、株価=一株当たり利益(EPS)✕PERという図式で株価は形成されます。EPSは景気が良ければ増加傾向にあり、景気が悪化すると急速に低下するという性質があります。ただしEPSの予想というのは簡単ではなく、景況感から大勢を把握すれば十分でしょう。

 株式投資において重要なのはバリエーションです。平時であれば日本株であればPER15倍前後、米株であれば20倍前後(NASDAQは25倍)を下回れば買い時です。日本株のPERはこちら、米国株のPERはこちらが参考になると思います。(これらの数字の根拠は、株式の割引率は一般的に6%程度、日本株だと永続成長率0%、米国株だと1-2%を見込むためです。)

 PERや株式市場については下記の記事達を参考にして下さい。

www.life-in-investment.com

www.life-in-investment.com

エネルギー投資の考え方

 最も一般的な投資先は原油ですが、ちゃんと原油の生産動向や、生産コストなどが頭に入っていない方には投資を勧めません。なぜなら、供給の変動が大きく、OPEC+などの産油国の動向が景気以上に原油市場への影響を与えるからです。一般的には景気が良くなるとヒト、モノの移動が活発化したり、化学製品の製造が活発化することで需要が高まり価格が上昇します。ですが、産油量は各国の政治的、経済的理由で大きく変動することから、供給サイドの理由で原油価格が変動すること多々あります。

 裏を返せば、産油国の動向についてわかっていれば株式とは異なるリスクを取れるので興味がある方は、①産油国のシェア、②産油国それぞれの原油生産コスト、③過去の原油価格、供給変動と理由などについて十分に調べた上で、投資をすることをおすすめします。また、原油は金同様コモディティなので、売却タイミングを見誤らないことも重要です。

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