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株価を動かす要因 ~クリティカルファクターについて~



要約

  • クリティカルファクターとは株価を動かす要因
  • カタリストの発生によりクリティカルファクターの存在が実証され、株価が変動
  • クリティカルファクターは過去の株価の動向から判断

導入

 前回、業界の分析方法について紹介しました。今回は、個別株において何が株価を動かすのを特定する方法を紹介します。また、これは定性分析としてはほぼ最終局面で、ここでの記事は業界分析チェックリストの項目の調査が済んでいる前提です。

クリティカルファクター

 この用語は日本ではあまりなじみのない言葉だとは思われます。クリティカルファクターとは業界、または個別企業の株価を動かす要因のことを言います。これを特定し、クリティカルファクターに対する予想を立てることが株式調査の目標です。

クリティカルファクターになる条件

 まず、クリティカルファクターになるの条件をチェックリストで紹介します。

  1. 投資期間内に起こりうる
  2. カタリストが発生したとき、その要因が株価に重大影響を及ぼす可能性が高いと市場に受け止められる

 カタリスト(Catalyst)とは株価を上昇させるきっかけと出来事のことを言います。つまり、以下の図のようにカタリストが発生することで、クリティカルファクターが実証され、株価が動くのです。カタリストなしに株価が大きく変動することはありえません。ちなみにカタリストとは日本語で触媒のことで、化学反応を促進させる物質、株でいうと株価変動を促すニュースのことです。

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 カタリストとなりうるのは、以下のいずれかのことが多いです。

  1. 企業主催のアナリストミーティング
  2. 業績発表または企業の業績見通し発表
  3. 新規制の期日または裁判判決の発表
  4. 企業の顧客、競合またはサプライヤーが事前にスケジュールしていた発表
  5. 新商品もしくは商品展開の拡大の発表
  6. 業界もしくは企業の期中の販売データ

また、クリティカルファクターになるための条件である、株価に重大な影響を及ぼすためには以下のうち1つ以上の条件を満たす必要があります。

  1. EPS/CFPSを5%以上変化させる
  2. ROIC/ROEを0.5%以上変化させる
  3. 企業買収/被買収もしくは経営陣交代を発生させる可能性を大きく変える
  4. 株価のボラティリティ(ベータ)を大きく変える

 上記は近い将来の財務見通しを変える場合の条件で、近い将来の財務に影響がなくとも、

  1. 投資家の自信度を上げる(リスクプレミアムの低下)
  2. 会社の経営権を握る/放棄するための大型株式買収/売却が行われる可能性を示唆する

場合は株価に重大な影響を及ぼすことがあります。

クリティカルファクターには深い調査が必要

 クリティカルファクターに対しては特に深い調査が必要です。以下のようなケースを考えてみましょう。

 例えば、市場が燃料価格の上昇によって業績が下がると考えているとしましょう。これが正しいかどうかは以下の2つのパターンが考えられます。

  1. 航空会社が燃料価格にヘッジをかけておらず、顧客に燃料サーチャージをかけることができない場合
  2. 航空会社が顧客にうまく燃料サーチャージをかけることができる場合

 このいずれかによって、市場の考えがあっているか、どうかが異なります。1が事実ならば市場は合っていますが、2ならば業績は悪化しないでしょう。

クリティカルファクターを探すには

 次に、どのようにクリティカルファクターを探すかを説明します。原則クリティカルファクターは、過去に起きた事象から判断します。過去の事象は基本調査企業で起こったことですが、もし、調査企業が新しいことに取り組んでおり、先行する同業がいれば、同業の過去の動向から判断します。クリティカルファクターを見つけたら、クリティカルファクターとカタリストをセットで記録を取ることが重要です。

財務/バリュエーション指標を使う

 以前の記事で行った業界分析の結果を用いるとスムーズです。業界分析が手間で嫌という方でも、最低過去10年の同業の財務指標、バリュエーション指標は収集し、スプレッドシートとグラフにまとめましょう。

 基本的に、今まで企業の株価が同業、株式指数に対しアウト/アンダーパフォームした期間に、企業の財務指標、バリュエーションがどう変化したかをヒントにクリティカルファクターを探ります。財務指標とバリュエーション指標の分析方法はそれぞれ以下のようになります。

  1. 財務指標...売上など主要財務指標のCAGRを分析。また、企業の収益力を分析するにあたりデュポン分析を使い、3要素がどのように変化したかを確認する。会計原則の変更にも注意する。
  2. バリュエーション指標...PERなどコンセンサスに基づいたバリュエーション指標の過去の推移を分析。また、現在のバリュエーションに何が含まれているかを分析。

 デュポン分析に関してはこちらの記事で紹介しています。 

主要な財務指標というのは、売上、EBIT、EBITDA、法人税、EPS/CFPS、設備投資、減価/減耗償却/減損などが含まれます。また、以上の分析は調査企業単体だけではなく、同業や、バリュエーションでは株式指数と比較することが必要です。こうして、調査企業の数値に特異な点が見られたときに、それが起きた要因を分析することでクリティカルファクターを見つけます。具体的には、異常な数値が出てきた時期に、ニュースや企業からの発表がなかったかを探すことでクリティカルファクター/カタリストが見つけられます。

現在と過去の財務/バリュエーション指標

 現在と過去の財務/バリュエーション指標を分析することは目的が別々になります。現在の数値には何が含まれているか、過去の数値では過去織り込まれたものは何かを探します。

 過去指標の分析は、特に割安(バリュー)株に重要で、長い期間のデータを集めるほど精度が上がります。そのため、最低10年と言いましたが、バリュー株の分析にはより長い期間のデータを集めることが好ましいです。一方、現在指標の分析は全ての株において重要ですが、特にクリティカルファクターが複数存在しうる成長(グロース)株では、より重きを置く必要があります。

クリティカルファクターを見つけたら

 おそらく何個かクリティカルファクターが見つかってしまいます。しかし、株価が大幅に動くときはたった1つの要因で動くことが大半です。

クリティカルファクターのリスト

 まずクリティカルファクター/カタリストのリストを作ってみましょう。その際に以下の2つのポイントもあわせてリストに組み込みましょう。

  1. 重要性...クリティカルファクターが株価に与えうる影響の大きさ
  2. カタリストが投資期間内に起こりうる可能性

 通常2-4個の要因が焦点を当てるべきクリティカルファクターです。そのため、上で作ったリストを基にクリティカルファクターの絞り込みを行う必要があります。もし、カタリストが予測が困難なマクロ指標(GDP, 原油価格)の場合は収益を上げることは困難でしょう。

 次の記事では、クリティカルファクターを定めた後に、どのように新しいクリティカルファクターをモニタリングするかを紹介します。

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