要約
- 保守性の原則、減価償却費、減損会計、棚卸資産の評価方法、偶発事象について記載
導入
今回は財務諸表作成に当たって用いられているルールや考え方のうち、投資をするために有用な項目のみを紹介します。
会計原則
会計原則とは財務諸表を作成する上で、基本的なルールです。会計原則はいくつかありますが、投資をする上で知っておかなければならないのは保守性の原則に限られます。
保守性の原則
保守性の原則とは収益、資産を過大表示する可能性が最も低い方法を取って財務諸表を作成しなくてはならないという原則です。つまり、財務諸表は悲観的に作成する必要があるということです。投資家としては過度に批判過ぎないかという点に着目することも必要ですが、企業がこの原則を守っていないように見受けられる場合には不正会計を疑う必要があります。
減価償却
減価償却とは固定資産の経年劣化に伴い、固定資産の価値を減らす手法です。特にのれんを償却する場合はのれん償却、埋蔵資源など物量に対して償却する資産の場合は減耗償却と呼びます。以下が減価償却のイメージ図です。
減価償却では当初の価値(取得原価)から、残存価値(どんなに古くなっても残る価値)まで毎年償却していきます。日本の会計では減価償却には4つの減価償却の方法があり、それぞれについて以下で紹介します。
定額法
定額法とは毎年、同じ額を減価償却する方法です。例えば、100億円で購入し、3年で価値が40億円になる場合、以下の額が毎年償却されます。
定率法
定率法とは毎年、期首残高に対して同じ割合で減価償却する方法です。取得当初に最も多く費用計上をすることで長期的な利益を確保します。例えば100億円で購入し30%ずつ3年間で償却する場合は以下のようになります。
※他の例と違い、5億円程度残存価値が減っています
この方法で償却する場合、残存価値が計算式に出てきません。しかし、定額法同様最初に残存価値が決められており、減価償却を最後までしたときに残る額が残存価値と同じになるように償却率が定められています。
級数法
級数法とは毎年、一定額ずつ償却額が減っていく償却方法です。定率法同様、取得当初に最も多く費用計上をすることで長期的な利益を確保します。例えば100億円で購入し、3年で価値が40億円になる場合、以下のようになります。
生産高比例法
生産高比例法とは使用した分だけ減価償却を行う方法です。例えば、1万回使うと寿命を迎える100億円の機械を3千回使った場合は以下のようになります。
減損会計
減価償却費と違い、様々な要因で固定資産の収益性が低下してしまった場合に行う会計処理です。基本的には特別損失として計上されます。
減損を行う基準は「将来キャッシュフローと正味売却価格のうち大きい方が簿価を下回った場合」とされています。この際の将来キャッシュフローとは、20年もしくはそれより短い耐用年数のいずれかの期間においてのキャッシュフローの現在価値を指します。また、正味売却価格とは現時点での売却価格から売却費用を引いたものです。
投資家として正確に減損額を算定することは困難です。しかし、特に大規模投資を行っている会社では、大きな減損会計が発生しうるかは注意が必要です。
棚卸資産の評価方法
棚卸資産の評価方法には大きく分けて、原価法、低価法の2つの方法があります。結局は2グループ両方の評価方法を使いますが、最終的には低価法での評価を行います。
また、棚卸資産の内販売されたものが売上原価となり、残りが貸借対照表上の棚卸資産として計上されます。
原価法
原価法とは、基本的に棚卸資産の取得減価を用いることで棚卸資産の評価する方法です。原価法にもいくつか方法があり、そのうちの代表的なものを紹介します。例として以下のような取引を用います。
個別法
個別法とは使った在庫の仕入れ値を売上原価として使う方法です。一見完璧な方法にも見えますが、在庫を仕入れるタイミングで仕入れ値が違った場合、いつの在庫を使ったことにするかによって、利益操作が可能という欠点があります。
今回の例では8/15の仕入れから全てを売れば、単価880円を原価にし利益を押さえることができます。一方8/3と8/15の在庫から100個ずつ売ったことにすれば単価840円が原価になります。
先入先出法(FIFO, First-In First-Out method)
FIFOとは先に仕入れた棚卸資産から販売をしていくと仮定した評価方法です。従って、一番古い在庫の仕入れ値から順に売上原価となります。原材料価格が急騰した場合にはこの方法を使うと、値上げをすぐにしなくても利益を確保できます。
今回の例では8/3,8/15の在庫100個ずつの(800×100+880×100)÷200=840円が原価の単価になります。一方期末の棚卸資産の単価は(880×200+950×100)÷300=903.3円になります。
後入先出法(LIFO, Last-In First-Out method)
LIFOとは後に仕入れた棚卸資産から販売をしていくと仮定した評価方法です。従って、一番新しい在庫の仕入れ値から順に売上原価となります。この方法は米国会計基準でのみ使用可能です。
今回の例では8/15の在庫を使うことになり、単価880円が原価になります。一方期末の棚卸資産の単価は(800×100+880×100)÷200=840円になります。
総平均法
総平均法とは期中の購入分全ての仕入れ値の平均を売上原価とする方法です。今回の例では(800×100+880×300+950×100)÷500=878が原価の単価になります。期末の棚卸資産の単価も同様です。
移動平均法
移動平均法とは仕入れ、販売がある都度、それまでの仕入れ値の平均を売上原価とする方法です。今回の例では、(800×100+880×300)÷400=860が原価の単価になります。また、10/30時点での単価は、10/29までの単価860を引き継ぎ、(860×200+950×100)÷300=890になります。
低価法
低価法とは、原価法のいずれかで評価した価格と時価の、いずれか低い方の価格で評価するという方法です。保守性の原則から、財務諸表作成にはこれを必ず用いています。時価の切り下げがあった場合、売上原価として損益計算書に計上します。
上記の例で期末の棚卸資産の時価が880円であるとします。すると、総平均法、LIFOを使っていた場合は総平均法、LIFOでの棚卸資産の評価となりますが、先入先出法と移動平均法の場合は棚卸資産を時価評価します。
偶発事象(債務/債権)
偶発債務とは将来起こりうる出来事で、それが起こった場合に、利益または損失を出す出来事のことを指します。利益を発生させる場合偶発債権、損失を発生させる場合は偶発債務と呼びます。保守性の原則から、原則偶発債権は記載されません。一方で、偶発債務は発生可能性ごとに以下の表に従って記載されています。