要約
- 業界の分析は1.需給分析 2.過去の財務指標とマクロ経済データ分析 3.過去の株価分析 4.サプライチェーン分析によって行われる。
導入
前回の記事では株式調査を成功させるための条件をチェックリストを紹介しました。今回は業界分析において調べなくてはならない点についてリストアップします。
業界分析
企業分析をする上でまずは、業界の調査から始めるのが肝です。実際にこれらを行うのは個人ではツールが少ないため大変でしょうが、一回行ってしまえばかなり精度の高い調査ができます。一方で、手間が大きいのも事実ですので、より精緻な分析をしたい方向けだと思います。それぞれ、項目別に紹介します。全部で4つのパートを順に行うと業界調査完成となります。
業界の需給分析
業界の需給について調べましょう。それぞれを調べる点においてのポイントを下に書きました。これらは必ずしもデータが存在するわけではなく、難しい作業の一方、非常に役に立つ情報であるため最善を尽くしましょう。
- 業界の供給量...ここでいう供給とは製品/サービスを生産/のことです。供給量を調べる際には、企業の価格設定(コスト)に影響する主要な要素に焦点を当てましょう。必要に応じて、海外からの輸入としての供給量についても調べましょう。
- 業界の需要量...業界の顧客を定めることで、輸出を含め需要量を定めましょう。セグメントに分けて考えるのは有効ですが、その後独自の業績予想を立てる上で、違いがわかるために必要最低限のセグメントに留めておきましょう。また、需給は一致しなくてはなりませんが、データが限られている以上必ずしも一致しません。
- 価格設定...平均価格の算出を可能であればしましょう。また、過去平均価格の上下動によって需要と供給にどのような影響があったか確かめましょう。
これらの情報は業界の協会や専門誌、もしくは業界のコンサルタントレポートを読むことで通常入手されます。
鉄道会社を例に需給に考えてみると、以下のようになります。
- 線路の長さ、電車の車両数、従業員数、列車の速度...etc。本の著者ジェームズ氏によれば、これらの要素が挙げられるものの、結局価格設定に影響が強かったのは従業員数で、従業員数に焦点を当てていた模様です。
- 顧客として、石炭、穀物、化学品、自動車、インターモーダルと分けることができます。
需給を調べることで、需給のバランスから価格変動を予測することができます。また、基本的に需給の成長率はCAGR(Compound Annual Growth Rate, 年平均成長率)を使って分析します。CAGRは通常幾何平均で算出され、3年間なら3年間の増加率の平方根、4年間なら立方根、、となります。
例えば供給が需要を大きく上回って成長していれば、将来価格は下がるでしょう。さらに、もし完全に需給を掴むことができたら、かなり正確な各企業の業績予想が作れるでしょう。
業界の過去の財務指標とマクロ経済データ
業界の数値データを集める上で着目するべきは以下の2点です。
- EPS/CF成長率...いつ山と谷をうち、安定期があればそれがどのくらい続いたかを調べる。
- 業界に影響を与えそうなマクロ経済のデータ...業界の売上、平均単価、利益、配当、設備投資、ROIC...etcに影響を与えそうなマクロ経済のデータを集める。
マクロ経済のデータには様々なものが含まれます。例えば自動車会社であれば、自動車普及率、新車販売数、人口動態などのデータが考えられるでしょう。
業界の過去の株価のパフォーマンス
以上で行った需給分析、財務やマクロ経済の指標などの分析を用いて、それらが株価にどのような影響を及ぼすのかを分析します。それには2つのステップがあります。
まず初めに、基本的には業界の株価が、株価指数に対して上回ったとき、下回ったときに着目することが重要です。このように株価を分析することの目標は以下の3つです。
- いつ業界がアウト/アンダーパフォームするのか特定する
- 相対的な株価のパフォーマンスがマルチプル(PER, P/CF)と業績予想コンセンサス(EPS/CF)のどちらの変化によってが生まれたか見極める
- 関連業界の動向の影響を受ける、もしくは関連業界に影響を与えるまでの時間差の特定
このとき、業界の株価は自分で算定する必要があるでしょう。日本株なら業界内の企業の時価総額を総計してTOPIXと比較すればよいです。このとき、破産した会社や、買収された会社も計算に含める方が正確でしょう。
理想的には、マルチプルと業績予想のコンセンサスがそれぞれ、業界の株価が株式指数との相対的なパフォーマンスにどれくらい寄与したかを特定することで、株価に対する心理的な影響を隔離したいところです。
そして次に、以上の3つを特定した上で、何が最も株価を動かす指標なのかを特定しましょう。
サプライチェーン分析
上の図のように業界Bを調べるにあたり、業界A,Cにあった影響は間接的に、業界Bに影響を及ぼします。この影響や供給元、顧客との関係を調べるのがサプライチェーン分析です。実際にこれを最初から作るのは大変な手間なので既存のものを使うとよいでしょう。実際にこれを作ったり、追記するには有価証券報告書か業界の専門誌を使って顧客、供給元を特定できます。特にBtoBの事業を行う企業分析においては必須です。
次のページでは、個別企業分析にあたり、最終目標であるクリティカルファクターの条件と探し方を紹介しています。