投資の世界に生きる

プロ投資家として投資の基礎を発信


9月日銀会合で鮮明化した日銀株式市場主義と日米金融政策予想のコツ



要約

  • 今の相場で最も重要なのは政策への思惑
  • 株式市場主義の日銀
  • 経済指標主義のFRB

導入

 やや遅れた話題ですが、9月末にあった日銀の政策決定会合は今までと若干異なるものでした。今回の決定で見え透いたのは日銀の株式市場主義ということです。

 日銀のこのスタンスを理解していれば、次回からの会合でも何をその時に行うのか読みやすくなります。そこで日銀の政策決定が株式市場主義であるという論拠を述べます。

中央銀行の政策を読む~BOJ/FEDウォッチ~

 今のマーケットでは中国、欧州の経済不安が強い一方で、日本、米国の経済は基本的には軟調であっても壊滅的ではないことから、中央銀行の政策思惑で相場のほとんどが決まっています。米国選挙などにイベントはいくつかありますが、引き続き中央銀行への注目度は高い時期が続くでしょう。

 従って、今の相場で最も重要なのは日銀とFRBの政策を正しく予想することです。そして、中央銀行の政策予想において最も重要なのは中央銀行の考え方に寄り添って、政策を予想することです。

 日銀は最近ようやく市場との対話を意識しているようには思えますが、以前まではサプライズ主義で市場との対話がほとんどありませんでした。そのため、日銀の政策を読むのは日銀のスタンスを理解していなければ不可能です。

タカ派/ハト派

 タカ派というのは金融緩和推進派のことを指します。一方、ハト派は金融引締推進派のことを指します。これらは中央銀行の政策に関わるニュースでよく用いられる用語です。このページでも使用します。

日銀のスタンス

 タイトル通り、日銀は株式市場主義のスタンスです。これ自体は以前から明白でしたが、最近ではこれが露骨になりつつあり、株式市場の言いなりなり始めています。

序章~7月会合でのETF買い入れ枠拡大~

 日銀は7月末の会合でETFの年間買い入れ枠を3.3兆円から6兆円*1に引き上げました。このとき、債券/FXサイドの追加緩和の思惑が外れ、円高、株式は需要増から株高となりました。

f:id:eve93:20161001111009p:plain

 上のチャートからもわかるように7月以降更に為替と株の相関がなくなってきています。このときにすでに株価を意識している姿勢が明白になりました。

9月会合での決定

 9月会合の前には以下のような日銀の金融政策の問題点が指摘されていました。

  1. 金融機関の収支悪化...マイナス金利の悪影響
  2. 金融緩和の限界論...日銀が国債の4割を保有する流動性問題、マイナス金利のデメリットの大きさ
  3. 株式市場の歪み...ETFの買い入れが増えたことからNT倍率上昇 

これを受け9月会合で決まったのは主に以下の3点と市場の判断です。*2

  1. イルードカーブコントロール...国債買い入れ額ではなく、金利水準(主に長期金利0%)で買い入れを決定する。→テーパリング(金融引締)、債券のボラティリティ上昇、銀行株上昇
  2. オーバーシュート型コミットメント...物価目標の2%を超えても金融緩和を持続する→現状無意味
  3. 資産買い入れ方針...TOPIX連動型ETF買い入れ増加、日経連動型ETF買い入れ約半減*3→NT倍率是正

 2が現時点での影響がないことを除けば今回もまた、株式市場を強く意識した動きです。

 また、直近の黒田総裁の発言からはマインドという言葉が多く出ています。*4*5以前から国債が低い利回りであったことを考えると消費者マインドが預金、保険、年金の利回り低下から起きるとは考えづらいです。従って実のところ日銀は、株価が下がって消費者へのマインドへ悪影響を及ぼすことを避けたいと思っていると考えられます。

 実際に債券市場のボラティリティ上昇、円高の中で株式市場だけ比較的落ち着いていることからも株式市場主義の日銀としては最良の判断をしたと考えているでしょう。

 一旦はマイナス金利解除ということで株式市場から日銀の目が離れる可能性もありますが、日銀の株式市場下支えへの強い意識は今後も変わらないでしょう。

投資戦略

 日本株にとって年内の以下が主な好材料/悪材料のリストになります。

 好材料

  1. 米国年内利上げ...ほぼ確実。利上げ後は見通しが悪いことに注意。
  2. 原油減産合意...真偽や影響力は半ば怪しい。

悪材料

  1. ドイツ銀行問題...以前からあった問題が再燃しているだけですが、ボラティリティを上げる要因となるでしょう。
  2. 米国選挙...トランプ氏になるよりクリントン氏になった方がましという程度でボラティリティを上げる要因にしかならないでしょう。
  3. ブレグジット...いまだに詳細が決まってないことからボラティリティを上げる要因となるでしょう。

 従って、為替、株は年末まではボラティリティが高い状況が続くと思われます。

 一方、メインシナリオとして、米国年内利上げがあるため一時的な円安株高が見られるでしょう。日経平均が悪材料への懸念によって引き下げられれば、短期的なチャンスは生まれるでしょう。

 従って、アグレッシブな投資家は細かく利益を積むチャンスですが、そうでない方は様子見の時期になると思います。細かい利益を積み上げたい方は以下も一つの戦略です。

www.life-in-investment.com

余談~FRBのスタンス~

 一方FRBのスタンスです。今のFRBは経済指標主義です。また、イエレン議長がハト派であることから、なかなか利上げ(金融引締)に踏み切れません。一方、景気の過熱を防ぎたいという思惑もあることから利上げをする意思もあります。

 5月の雇用統計、8月の経済指標のネガティブサプライズによって利上げを見送ったように、ネガティブな材料が出てしまうと慎重に利上げを見送るのが今のFRBです。

 FRBは比較的市場との対話を重視しており、市場に自分たちの取る政策をほのめかすことから予想はあまり難しくはありません。

 ※以前の9月利上げは記事作成時には外してしまいましたが、8月の経済指標のネガティブサプライズ時点で9月利上げはないと踏んでいました。

≪前のページ