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4大投資収益指標紹介(エクセルファイル付き)



要約

  • リスクを大きく取れない(経営体力がない)場合は回収期間を検討
  • 金融商品など幅広い投資商品と比較するなら期待利回りを検討
  • リスクを取れる場合、企業の投資検討にはNPVを検討
  • 正確、簡単に投資が儲かるか、儲からないか判断するにはIRRで検討
  • 後編に比較早見表記載

導入

 投資の収益と言っても、どのように測るかで数値や実感が変わってきます。今回は金融の手法でどのようなものがあるか、使えるものを厳選して簡単に紹介します。それらの特徴、メリット/デメリットも一緒に紹介します。

 以下で紹介する手法をエクセルで使うためのモデルファイルを用意しました。ダウンロードはDropbox - 投資収益指標.xlsxから。

回収期間

概要:一番シンプルで分かりやすい指標です。投資にかかったコストを回収するのにかかる年数を指標とします。回収までの期間が短ければ短いほど採算が取りやすいです。例えば初期投資1億円のマンションを購入し毎年、家賃から維持費を差し引いて1,000万円が入るとすれば

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となり、10年が指標となります。毎年決まった額の収益を上げるものへの投資や、赤字を避けたい場合に有効な指標です。一方で、不安定な収益を生むものへの投資や、現在価値の概念(後ほど説明)を導入するとこの方法でのリターンの評価は信頼性が低くなります。また、投資規模について別途検討する必要があります。

 現在価値の概念をこの方法に適応することは可能で、後のNPVの説明を見れば簡単に適応できます。

特徴:いつコスト回収をできるか(=黒字になるか)で判断

メリット:直観的で分かりやすい

デメリット:不安定な収益を生む投資に適さない、投資規模が反映されない、現在価値の概念がない

期待利回り

概要:一番投資対象間で比較がしやすい指標です。初期投資に対して、毎年生まれる収益の割合が指標です。利回りが高ければ高いほど、より収益が上がるだろうと言えます。先ほどのマンションの例を使えば

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となり、10%が指標となります。これも回収期間同様、毎年安定収益を生む投資で有効ですが、不安定収益を生む投資にはあまり適しません。回収期間との違いは、現在価値の概念によって、指標の信頼性が低くなることはありません。また、多くの金融商品や、不動産などの投資話は期待利回りが指標であるため、利回りを使えば商品間の比較が簡単です。ただし、投資規模に関しては別途比較する必要があります。

特徴:初期投資に対し、毎年どのくらい収益が上がるかの割合で判断

メリット:投資商品同士の比較がしやすい

デメリット:不安定収益を生む投資にはあまり適さない、投資規模が反映されない

NPV(Net Present Value,純現在価値)

概要:一番プロの投資判断で用いられている指標です。純現在価値は現在価値という概念を用います。株や債券などの金融商品から不動産までも現在価値に基づいて価格決定がされています。

現在価値とは

 現在価値という概念では今日受け取る1万円と来年受け取る1万円では、実は価値が違うという前提があります。この前提に関して納得できる説明は、例えば以下のようなものがあるでしょう。

  1. 今日受け取る1万円は今日から使えるが、来年受け取る1万円は今日使えない分損(ドケチ気持ちの問題)
  2. 今日受け取る1万円を銀行預金に入れれば、1年分の利息が受け取れる(金利の問題)
  3. 日々物価は上がっているので、今日1万円で買えるものは来年1万円で買えない(インフレの問題)
  4. 今日1万円受け取るのは可能そうだが、ほんとに来年1万円受け取れるのか??(不確実性の問題)

 いずれにしても納得はできる内容かと思われ、実際に2番目以降は現在価値の算定にか関わります。では、今日の一万円は来年の一万円よりどのくらい安いのでしょうか?どのくらい安くするかを決定するのは割引率(ディスカウントレート)といいます。

割引率とは

 割引率は投資家の期待収益率(期待利回り)と一致します。つまり、「将来得られる金額に対して、いくらまで安くしたら投資家が買ってくれるか?」が割引率です。この割引率を使ってどのように来年もらえる1万円の現在価値が計算されるかというと以下の式を使います。

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 また、この受け取る1万円が2, 3, .... n年後となれば分母が2, 3, .... n乗に変わります。割引率の算出方法など詳しい話に関してはこちらの記事で紹介します。

 NPVとは(Net Present Value,純現在価値)

 現在価値、割引率を踏まえてNPVの説明に入ります。NPVとは、投資コスト、収益を全て割引率を用いて現在価値にし、それらの現在価値の合計です。NPVが0以上であれば、儲かることを示しています。例で500万円の初期投資を行えば翌年から毎年100万円ずつ収益を生む「投資A」を考えます。この例のキャッシュフロー、キャッシュフローの現在価値をそれぞれ10年目まで図にしました。

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 これらの図からわかるように先の将来になればなるほど、同じ額面を受け取るにしてもどんどん現在価値は下がっていきます。NPVを計算し、年数別に表したものが以下のものになります。 

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 この表からわかる通りNPVを用いると、この「投資A」を8年以下しか続けないなら損することになります。また、先ほど述べた回収期間で考えると6年ですが、NPVを用いると6年ではまだ赤字となります。余談ですが、NPV>0になるのに9年という結果は、現在価値の概念を回収期間に適応した場合の値です。

 また利回りとは違い、投資から現在価値でどれくらい稼げるのかの額面がわかります。例えば企業であれば、ある投資からどの程度会社の価値を増やせるかが算定できます。(企業の価値の測り方はこちら)

万能に見えますが、割引率をどのように設定するかで簡単に結果を変えることができてしまうのが難点です。以下の表が割引率に対し、いつNPV>0となるかを計算したものです。

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 割引率の操作を回避するにはを感応度分析という割引率をある幅で変化させたときNPVがどのようになるか確認する必要があります。以下の表が「投資A」を10年間続ける際、割引率によってNPVがどのように変化するか示した図です。

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 また今回の投資Aのように、永遠に一定または一定率で増加する(と仮定できる)キャッシュフローの合計は以下のように算出できます。

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 ※この式は、高校数学でもやる等比数列の無限級数によって導出できます。

2014年前後に流行ったピケティ教授の「r>g」、「資本収益率は常に経済成長を超えている」の証明はこの式に重大な意味を持ちます。なぜなら、現実で先ほどの式が成り立つことを実証したからです。実は、一般的に割引率はrで、キャッシュフロー増加率はgで表されます。つまり先ほどの式の分母は「r-g」となります。つまり、ピケティ教授の「r>g」の証明がなければ、分母が負となる可能性を示唆するからです。

 このようになる背景には高校数学の無限級数和があります。数学の説明が本ブログのメインでないことや、数学的背景を理解しなくても投資はできるため、式の導出は省略します。

 NPV総括

特徴:現在価値の総計で判断(最もプロに用いられている指標の一つ)

メリット:現在価値でどのくらいの規模儲けられるかわかる、不安定収益を生む投資でも正確な判断が下せる

デメリット:割引率の設定によって結果が操作されてしまう

IRR(内部収益率)

 概要:単一の数値、割引率で投資の判断が下せることが最大のメリットとなる指標です。特に、IRRは一旦確定すれば、変化することはありません。このため、NPVと合わせてプロにもっとも使われている指標の一つです。この手法では、先ほど説明したNPVを用いて割引率を算出します。具体的には、ある投資がNPV=0になるように計算した割引率をIRRと呼びます。想定される実際の割引率がIRRを下回っていれば、儲かることを示しています。通常手計算では難しいためパソコンを使って計算します。(ExcelではIRRという関数で算出できます)

 先ほどの例「投資A」を使ってIRRを計算してみると以下のような結果になります。

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 「投資A」は割引率10%を想定していたことを頭に入れ、先ほどのNPVの表と比較しましょう。NPVと同様8年以下しか「投資A」を続けないならばIRRは割引率10%よりも小さくなり、損することを示しています。また、6年では収益と初期投資の額面が丁度一致することからIRRも0%を示しているのがわかると思います。

 IRRもまた万能ではなく、キャッシュフローが+からーに複数回変わってしまう場合、IRRが計算上2つ以上存在するケースがあります。この場合にはIRRでは正しく判断ができないため、NPVを使って判断することになります。

特徴:NPV=0となってしまう割引率(=IRR)と想定される割引率で比較することで判断

メリット:IRRは固定の数値であり、単一の数値で投資判断が下せる

デメリット:キャッシュフローによっては有効なIRRが算出されない、投資規模を考慮しない

投資リターン指標早見比較

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