要約
- ルベーグ積分を勉強するための基礎知識を簡単に説明しています。
- 推薦書も合わせて記載しています。
導入
数理ファイナンスでは数学の中でも確率論がコアとなっています。その際に、躓く者が多いのは導入として学ぶルベーグ積分だと思います。色んな数学書を読んだりすると、高校数学では学ばなかった言葉が出てきて戸惑うと思います。
そこで、今回は数理ファイナンスを学ぶ上でルベーグ積分のイメージを紹介したいと思います。また、ルベーグ積分を最短で理解できるよう必要な概念、言葉を必要最低限紹介します。
ルベーグ積分を本を使ってみっちり勉強しようという方は前提知識から読むことを勧めますが、ルベーグ積分のイメージだけ知りたい方はルベーグ積分まで飛んでください。
前提知識
この記事においての前提知識は数II・Bです。文系の方でも高校で学んだとされる範囲までです。ルベーグ積分の用途を言うと高校で習う積分では積分できない関数を積分しようというものです。それが確率関数と非常に相性がいいのです。
ちなみに、高校で習った積分(リーマン積分)は制限が多く、かなり限られた場合しか積分できません。
事前準備
ルベーグ積分の完全な理解には集合/位相と解析学の基礎的な概念がいくつか必要になります。解析学に関しては高校数学でも扱っているので、よっぽど深くやろうと思わなければ解析学は再勉強する必要はありません。
一方集合/位相は知っておいた方が得ではありますが、必要な言葉の定義だけ以下でしておきます。
集合族とは
ルベーグ積分の本には集合族、可算加法族/σ-加法族なんて言葉が多くできると思います。集合族とは一言でいえば集合の集まりということです。
簡単に言えば集合とは、数字の集まりだと思ってくれて構いません。高校数学で数列をやったと思います。以下のようなものです。
σ-加法族とは
可算加法族、σ-加法族、σ代数など様々に呼ばれますが、これらは先ほど紹介した集合族の一種です。しかし、以下の3つの性質を持っています。集合Xの部分集合族F(Xの部分集合でできた集合族)が以下の性質を持つときにFはσ-加法族と呼ばれます。
測度とは
測度とは簡単に言えば集合の大きさを決める関数です。通常μであらわされます。μが測度であると以下の性質を持ちます。
これが成立するのは上で紹介した、σ-加法族にのみ限ります。
確率測度
ちなみに数理ファイナンスでは様々な測度が定義されますが、そのうち最も基本的で基礎となるのは確率測度です。確率測度というと難しく聞こえますが、高校までの方でも知っているいわゆる確率のことです。
たとえばコインを投げて表裏の確率はそれぞれ1/2だというのはみなさん知っていると思います。このとき、表が出るという事象をHとしましょう。すると確率関数Pを使うと、P(H)=1/2と数学では表します。確率関数は関数と一緒です。f(x)のxに事象が入るだけです。P(H)はHが起きる確率です。
ちょっと数学的にこの話を発展させるとH(表が出る事象)={0}としましょう。つまりHは集合で0という元を含むとしましょう。すると先ほど上で述べたμを使ってμ(H)も定義できると思います。
可測関数とは
可測関数とは関数の一種です。一言でいえば、測度以下のように定義されます。
論理記号が多いため説明を加えると、fはXを定義域とする関数です。Xは実数など適当な集合に置き換えて考えていいです。Fは先ほどのσ-加法族です。
まず、fはFで可測、というような言い方をします。これは左辺によります。左辺は「f(x)は常に、Fの中のどんな数字よりも小さい」といっています。
可測空間/測度空間
位相についての知識が必要になるのであまり深入りしませんが、(X, F)を可測空間といいます。つまり、ある集合XとXの部分集合でσ-加法族のFのセットを可測空間といいます。
可測空間に測度関数μをセットに入れたもの(X, F, μ)は測度空間と呼ばれます。
先ほどのコイントスを例にしましょう。表が出る事象Hは定義しましたから、裏が出る事象T={1}と定義しましょう。そうするとX=H∪Tです。また、F={0},{1}です。この0,1をそれぞれ部分集合と考えるとσ-加法族の定義に当てはまることがわかると思います。そして、μ=Pです。Pは先ほどのPでP(H)=P(T)=1/2となります。
準備まとめ
測度空間上の可測関数はルベーグ積分が基本的には可能です。というのもリーマン積分にも条件があったようにルベーグ積分にも条件がありるということです。従って、上記の条件を満たすことが必要なのですが、事象の確率を考えるときには上記に当てはめることがそんなに難しくないのです。
例えば、コインの表裏を確率事象として考えます。まずは、σ加法族であるかどうかを確認します。
全体集合X={Φ,H,T,X}と部分集合族として表されます。(σ加法族条件1を満たす)Φは空集合、Hは表、Tが裏です。
たとえばHについて考えたいとき、Hの補集合はTでそれはXの部分集合族に含まれる。(σ加法族条件2を満たす)
HUTはXの部分集合族である。(σ加法族条件3を満たす)
よって、上の確率事象の部分集合はσ加法族です。次に、測度を定めます。これは確率関数でP(X=H,T)=1/2です。先ほどはμが多いといいましたが、高校での確率を思い出せばPが測度でした。
次に確率関数Pが可測かどうかですが、P(X=x)の最大値はP(X=X)=1(確率100%)が最大なため、確率関数は可測です。
したがって、確率はルベーグ積分を使うために必要な要素を満たしているのです。
ルベーグ積分
高校で習った積分(リーマン積分)はx軸で分割しています。以下の図のようになっています。
つまり、リーマン積分では、縦に分割して、その縦長い帯の長さを、xが小さいほうからyの大きさを測って計算していました。そして、xの長さを短くしていったというものです。
一方、ルベーグ積分ではyの値に応じて、xの大きさを測っています。
上は確率関数(確率分布)の例です。このような確率関数の期待値を計算するにはこの関数を積分する必要があります。しかし、リーマン積分では、たとえばX=1,2,3...のところは不連続で積分できませんでした。
ルベーグ積分では、X=0,1,2...ごとに、その横幅(P(X))を測ります。たとえば、X=1となるのは区間[1/6,1/3)でその長さは1/6です。従って、ここの面積は1/6となります。X=2となるのは区間[1/3,1/2)でその長さは1/6です。従って、面積は1/3となります。
これを繰り返せば、0+1/6+1/3+1/2+2/3+5/6+1=3.5となります。
これは高校でもやっていた簡単な期待値計算と実は同じなのですが、これをもう少し複雑な関数でもできるようにしようというのがルベーグ積分です。実際に、高校の数学の問題集である期待値計算にあたって、必ず確率変数ごとに分けて、確率を算出するとうまくいく背景にはルベーグ積分が潜んでいるのです。
推薦書
ルベーグ積分を学びたい方向けの推薦図書です。どれも私が読んだ本です。
集合と位相:ルベーグ積分の基礎的な概念
この本以外には集合と位相を学ぶのにいい本はないでしょう。充実した内容ですが、初学者にもわかりやすく解説されています。
ルベーグ積分
巻頭でも書かれていますが、文系でも読めるように書かれています。集合と位相についても書かれており、この一冊でも十分です。被覆定理などマニアックなところもありますが、コンパクトにまとまっている方だと思います。
確率論:数理ファイナンスの基礎
いずれの本も、上の本で測度論まで理解してから読んだ方がよいでしょう。なぜなら、確率論の解説は丁寧な一方、測度論に関しての解説があまり丁寧ではありません。
ルベーグ積分の使い方を学ぶには以下の本もおすすめです。
下の本は細かい誤植があるので適宜考えて読まなくてはなりませんがいい頭の運動だと思います。