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完全版:企業/不動産/プロジェクetcの割引率(WACC)の算出方法



要約

  • DCFとは企業の将来の予想FCFを現在価値に割り引いて企業価値を算出
  • WACCがDCF法にとっての割引率
  • WACCは有利子負債コストと株主資本コストから構成される

導入

 前回企業の事業によって生み出されるフリーキャッシュフローをどのように計算するかを紹介しました。今回はフリーキャッシュフローの割引率となるWACCについて紹介します。割引率、現在価値の概念はこちらのページ参照

 今回は企業の割引率を算出する前提で紹介しますが、不動産やプロジェクトにおいても同じ方法で計算できます。また、その際割引率=(資本を使うための)コストだと思って解説を読むとよいでしょう。

 今回はCAPMという理論に基づいてWACCを計算しています。割引率自体とCAPMの説明はこちらのページ参照。

 

WACC(加重平均資本コスト, Weighted Average Cost of Capital)

 企業の資金調達は有利子負債(Debt)と株式(Equity)の2つの方法で行われており、それぞれに期待収益率(=割引率)が存在します。つまり、資金調達はタダではなく、出資、融資を受けた額に対してリターンを返す必要があり、それを資本コストといいます。(本例では税金を考慮していません。実際には有利子負債資本コストに(1-t)を乗じます。)

 従って、WACCとは2種類の資本コスト(=割引率)を資本比率に応じて合算した企業のFCFの割引率です。以下の計算式で表せます。

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 以下の図がWACCの計算例です。

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次に式の内容を項目に分けて解説します。

資本構成比率とは

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 これらの分数項は資本構成比率といい、企業の資金調達の内、有利子負債/株主資本が占める割合を示します。

 有利子負債、株主資本共に時価で計算をする必要があります。一般的に株主資本の時価は時価総額のことです。また、有利子負債に何が含まれるかは、こちらのページ参照。有利子負債は時価、簿価によって大きく額が変動しないという前提のもと、簿価を使うことが実務上多いです。

 また、将来キャッシュフローを割り引くにあたり、WACCが変動する場合、将来キャッシュフローを割り引くにあたり、変化後のWACCを使用する必要があります。

 従って、資本構成の変動も予測する必要があります。企業が資本構成の変革を謳っていれば、それに一致するようにバランスシートを予測しなくてはなりません。特に企業からの発表がなく、バランスシートに無理がなければ、資本構成は一定と予測してもよいでしょう。

有利子負債資本コスト(負債コスト)

 負債コストとは、企業が借入、もしくは社債発行に当たって払わなくてはならない利子率です。計算方法は以下の2通りがあります。

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 原則、可能であれば2番の方法で負債コストを算出することを推奨します。なぜなら、有利子負債は種類によって利率が違い、負債調達の割合によって負債コストが変わるからです。

 簡便的には1の方法で、現在の負債コストを算出できますが、主に、1の方法は後に説明する個別の負債の利率の計算で使用します。 

2は分解すると以下のようになります。

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 さらに細かく見れば、借入、社債、リースそれぞれ短期長期に分け、加重平均で利率を計算(先ほどのWACCの計算と同様)する必要があります

有利子負債の利率算出

 基本的には、各有利子負債の利率は注記に記載されています。利率がなく、各有利子負債に対して払った利息支払額がわかる場合は先ほどの1番の方法を用いて計算が可能です。

 上の方法では、現在ある負債の利率は計算できますが、今後生まれる負債の利率は正確にはわかりません。そこで、将来の新たな負債の利率を計算するには以下の式を用います。※負債の利率が個々の負債のコストです。

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 これを図で示すと以下のようになります。

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 例えば現時点でのリスクフリーレートが異常で、リスクフリーレートが将来動くと予想できる際にはこの式を用いて将来発生する負債利率を算出しなくてはなりません。

 スプレッドに関しては企業の格付けから判断することができます。

株主資本コスト

 株主資本コストとは、企業が株式発行によって調達した資金に対してかかるコストです。以下の式で計算されます。

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 これを図で示すと以下のようになります。

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 負債の利率と似ていますが、リスクフリーレートが必ず10年物の新発国債になることに注意が必要です。次に、各項目ごとに説明します。

マーケットプレミアム(マーケットリスクプレミアム)

 マーケットプレミアムとは、投資家が株式指数に期待する、リスクフリーレートに対する超過収益です。つまり、株式市場全体として国債よりもどの程度期待利回りが高いかを示します。

 一般的に日本株であれば、3-7%くらいにあるのが正常な範囲だと思われます。一時的にはこの範囲の外に出てしまうことはありますが、持続的ではないでしょう。

 また、経済の見通しが良ければリスクプレミアムが下がり、経済の見通しが悪くなるとリスクプレミアムは上昇します。

β(ベータ)

 ベータとは企業の株式が、株式指数に対してどのくらい変動するかを示す数値です。日本株であれば通常TOPIXに対してどの程度変動するかを示します。ベータはbloombergやロイターの個別銘柄情報にも載っていますが、自分で適正値を計測することを推奨します。ベータの計測方法はこちらのページ参照

 一般的に、景気循環に強く影響を受ける業界の銘柄(耐久財製造業、金融業etc)はベータが高くなります。また、同業内でもリスク(売上構成etc)が偏っていたり、営業/財務レバレッジが高い会社は同業の中でもベータが高くなります。

 

 次のページではWACCとFCFFを用いて実際に企業価値を算出する方法(DCF法)を紹介します。

参考書

  割引率はコーポレートファイナンスの基礎です。そこで、コーポレートファイナンスの業界本を一冊掲載しておきます。

コーポレート・ファイナンス 第10版 上

コーポレート・ファイナンス 第10版 上

  • 作者: リチャード・A・ブリーリー,スチュワート・C・マイヤーズ,フランクリン・アレン,藤井眞理子,國枝繁樹
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2014/06/20
  • メディア: 単行本
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