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親身になって教える信用取引の仕組みとメリット



要約

  • 信用取引には2大メリット「資本効率上昇」と「株価下落局面での収益確保」がある。
  • 信用取引ならではのリスクが存在し、より適切なリスク管理が必要

導入

 今回の記事では、信用取引をしたことがない、複雑だと思っている方向けに信用取引の仕組みを扱います。信用取引とは元手の数倍の資金を使って(レバレッジをかけて)取引をする方法です。個人投資家の間では盛んに行われており、売買代金ベースで60%強が信用取引で行われています。*1

 信用取引最大のメリットは1.株価下落局面でも収益を上げることができる 2.資本効率が上がる ことです。一方で、リスクも上がるため、しっかりしたリスク管理が必要となります。リスク管理をするには、まず信用取引の仕組み、コストに関して正確に把握することが重要です。

信用取引のメリット

 私は個人的に信用取引自体はほぼ全ての方に恩恵が大きい制度だと考えています。そこで信用取引のメリットをまず、紹介したいと思います。

  1. 株式(現物)取引と損益通算が可能...従って税金対策が可能です。(先物では不可能)
  2. 株価下落局面でも収益を上げることができる...後に説明する信用売りで解説します。
  3. 資本効率が上げた取引ができる(レバレッジがかけられる)...手元資金の約3-5倍の取引が可能です。

 以上が信用取引のメリットです。

信用vs先物取引

 先物取引では個別の株などは扱えないものの、どちらもレバレッジをかけられることから比較する方が多いと思います。そこで最初に信用取引と先物取引を比較しておきます。

  1. 信用取引...レバレッジ約3-5倍。現物株式との損益通算可能→投資家向け
  2. 先物取引...レバレッジ約10-20倍。現物株式との損益通算可能→投機家向け

 簡単に言えば、先物取引をされる方は投資をするというより、市場の上がり下がりに純粋に賭ける方向けなのです。投資として、市場の上下動のリスクヘッジを行う手段としては、損益通算でき、十分なレバレッジがある信用取引で十分です。

信用取引仕組み

 信用取引では委託保証金と呼ばれるお金を証券会社に差し入れることで、証券会社から資金もしくは株を一定期間借入れることによって元手以上の取引が可能になります。信用買いでは、証券会社から資金を借入れて株を購入することができ、信用売りでは証券会社から株式の借入れて一旦市場で売却することができます。下の図が今説明した仕組みを視覚化したものです。実際には、取引所との売買は証券会社が取り次いで行うのが基本ですが、理解としては下の図で十分です。

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 また、用語の説明ですが信用取引によって投資家の売買注文が成立すると建玉(たてぎょく)と呼ばれる契約が成立します。信用買いであれば買建玉、信用売りであれば売建玉を作るといいます。

信用売り(空売り)に関して

 信用取引における2大メリットのレバレッジと対をなすのが信用売りという取引です。この取引によって株価下落局面においても収益を上げるチャンスが生まれます。日本証券取引所が公表する図に、追加説明を加えたものが下の図です。

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 つまり株を借りて、株を返すまでの間に一旦現金化しておき、株が安くなったところで買いなおして株を返すことで利益を上げることができるのです。これを利用すれば利益を上げるためだけではなく、株価下落のリスクヘッジにも使えます。

委託保証金

 信用取引において最重要事項ですが、やや複雑な面もあります。そのため、図で例を載せているので例と合わせて確認するとわかりやすいと思います。ここで示した保証金率などは制度変更によって変動することに注意してください。

委託保証金になりうる資産

 信用取引に必要になる委託保証金について説明します。委託保証金として利用できるのは1.現金 2.時価評価での有価証券 の2種類があります。特に委託保証金として使う有価証券を代用有価証券と言います。つまり、証券口座に現金が余っていなくても信用取引を利用することで更に有価証券の売買をすることができますが、より適切にリスク管理をする必要があります。また、多くの場合有価証券を保証金として使用する際、掛目(かけめ)と呼ばれる数値を有価証券の時価評価にかけた分が委託保証金となります。つまり、証券会社が掛目80%と設定し、時価評価500万円の有価証券を委託保証金として使う場合、この有価証券による委託保証金は400万円となります。また、必ずすべての有価証券が委託保証金として使えるわけではないことに注意しましょう。

レバレッジに関して

 2016年現在では、委託保証金の約3.3倍までがレバレッジの限界と規制されています。つまり、有価証券時価評価と現金合わせて300万円の現金があれば、1,000万円まで建玉を作ることができます。

最低委託保証金率(維持率)

 建玉に対しての委託保証金の割合を委託保証金率と言い、建玉を作るためと維持するための2種類の委託保証金率が存在します。前者の建玉を作るための委託保証金率は最低でも30%(=最大3.3倍レバレッジ)で設定されています。後者の建玉を維持するための委託保証金率は最低委託保証金率と呼ばれ、最低でも20%で設定されています。また、委託保証金が最低委託保証金を上回っているかは、毎日終値で計算されます。いいことではありませんが、取引時間中に最低保証金を割り込んでしまっても終値で割っていなければ問題はありません。

 最低委託保証金率を保証金が割り込んでしまうと最低委託保証金率を満たすまで追加保証金の差し入れが必要となります。追加保証金の差し入れを期限内にしない場合、通常建玉の強制決済となります。

委託保証金についての例

 委託保証金は最重要項目である一方、少し複雑なので実際の例を見てみましょう。証券会社が委託保証金率33%、委託保証金率20%、代用有価証券に対する掛目が80%と設定しているとしましょう。そこで現金150万円、有価証券150万円を委託保証金として使ったのが以下の例です。

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 つまり、この場合810万円まで建玉が作ることができます。では、これが信用買いで株価が20%下落した時の場合を見てみましょう。

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 まず、委託保証金の方から見ると、有価証券の評価額が株価が下落によって150万円から120万円に落ちます。一方で、建玉の方も約20%の160万円評価損が発生しています。このとき、委託保証金の評価額は、現金と代用有価証券の評価額を合わせた270万円から建玉の評価損160万円を引いた110万円となります。

 一方、最低維持保証金は162万円であることから52万円の追加保証金の支払いが必要となります。

 長くなってきたので、実は2種類ある信用取引の解説と信用取引対象銘柄について後編で紹介します。 

2種類の信用取引

 信用取引には制度信用取引と一般信用取引の2種類があります。これらの主な違いは対象銘柄数、期限、取引コストに違いがあります。また、一度どちらかの信用取引で建玉を作ると途中でもう一方に変更することはできません。日本証券取引所グループではこのようにまとめられています。

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 要点をまとめると以下のようになります。

  1. 期限:一般信用取引が無期限、制度信用取引で6カ月
  2. 対象銘柄:一般信用取引は全銘柄、制度信用取引は取引所指定の一部の銘柄
  3. 取引コスト:金利は一般信用取引の方が高い、品貸料(逆日歩)は制度信用のときのみ発生ことがほとんど

 特に気を付けなくていけないのは制度信用取引では建玉の期間が6カ月であり、6カ月を過ぎると強制的に建玉を解消(反対売買による損益確定)されてしまいます。

 また、品貸料(逆日歩)とは、市場で借りることができる株数が減ってくると株を借りている人(信用売りをしている人)が追加で支払わなくてはならないことがあります。不動産に置き換えると家賃上げみたいなものです。単純に言えば、需給の関係上、供給が減ってきた際、株の貸し手が借り手からよりお金を取れると踏み貸出料を上げてくるのです。

 それ以外の点では制度信用取引と一般信用取引では原則違いがありません。ですが、信用取引ではどちらの制度でも議決権や株主優待は得ることができないことに留意しておきましょう。

対象銘柄に関して

 先ほど一般信用取引と制度信用取引では対象銘柄が違うと言いました。上記の制度信用取引ができると定められた制度信用銘柄に加え、貸株が可能(信用売りが可能)と定められた貸借銘柄というのが存在します。これについてほりさげます。日本証券取引所が公表する図に、追加説明を加えたものが下の図です。

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 このように区分分けされていますが、時価総額が大きい株や売買金額が大きい株はほとんどが貸借銘柄にも定められており、信用買い売りの両方が可能です。一方小型株や、売買代金が小さい株は制度信用銘柄ないし、一般信用銘柄にのみ登録されているため信用買いしかできません。

信用取引の決済方法(建玉の解消方法)

 最後に信用取引で作った建玉の解消方法を解説します。まず、大きく分けて反対売買と実物決済の2つがあります。

  1. 売返済、買返済...反対売買によって信用取引を終了する方法です。売返済とは信用買いをしていた際に、株を売ったお金で借りた資金を返済することです。買返済とは信用売りをしていた際に、買い直した同じ銘柄の株で借りていた株を返済する方法です。
  2. 現引、現渡...実物によって信用取引を終了する方法です。現引きとは信用買いをしていた際に建玉分の現金を支払うことで、建玉分の現物株式を引き取ることで、決済する方法です。現渡とは信用売りをしていた際に、建玉と同じ銘柄の現物株式を渡すことで、決済する方法です。

 基本は反対売買でいいと考えています。実物決済を行うのは、信用買いした株を今後とも保有したい場合に現引、持っていた株の株価下落ヘッジで信用売りをしていて、今後も株価下落が見込まれるため現物を売ってしまいたい場合に現渡をするのが一般的でしょう。

信用取引のリスク

 信用取引では現物取引ではなかったようなリスクなどもあります。今一度、信用取引を行うときのリスクを整理しましょう。

  1. 手元資金以上の損失...レバレッジをかけているため、手元を超えて損失(追加保証金差入)が発生します。特に、信用売りの場合、株価上昇は限度がないため、最大損失が無限大です。(信用買いでは株価0までが損失限度です。)
  2. 信用取引ならではのコスト...主に逆日歩の発生です。
  3. 委託保証金率の改定...頻繁に起きることではないですが、委託保証金率が変わると保有できていた建玉が維持できなくなるリスクがあります。
  4. 取引規制...現物よりも多く、信用売買が停止することがあります。

 特に、取引停止の可能性が存在するため、小幅な値動きを狙いに行くのは信用取引では注意した方がよいでしょう。

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